2021.6.19 改正法について 記事より

ネットエイジア社の調査をもってしても、結局、禁煙化した方が客は確保できるという結論

引き続きネットエイジア社の調査結果に基づいて考察をしてゆきます(以下グラフは同調査から引用しました)。
ネットエイジア調べ ~改正健康増進法の施行から1年~ 喫煙スペースが「必要だと思う」非喫煙者の64%

2点目は,健康増進法の施行前後で,お店選びに行動変容があったのかという点について考えます。
言い換えると,喫煙店が禁煙店になることで客は減るのかというテーマについて考えます。

まず,「お店が禁煙になったため行かなくなったお店があるか」という問いに対して,喫煙者の47.2%が「ある」と答えたそうです。
また,「喫煙可を理由に初めて選んだお店があるか」という問いに対して,喫煙者の39.6%が「ある」と答えたそうです。

他方で,「2020年4月以降も喫煙が可能だったことで行かなくなったお店があるか」という問いに対して,非喫煙者の11.8%が「ある」と答えたそうです。
また,「禁煙を理由に初めて選んだお店があるか」という問いに対して,非喫煙者の15.4%が「ある」と答えたそうです。

これだけ見ると,「お店を禁煙化すると喫煙者の客を逃すわりに,非喫煙者の客を呼べるわけではない」という印象を感じると思います。
いま喫煙可で禁煙にしようかどうか迷っているお店にとっては,禁煙にすることに躊躇するかもしれません。

しかし,これは世の中の喫煙者割合と非喫煙者割合を頭に入れて考えるべきでしょう。

厚生労働省国民健康・栄養調査によると,全人口でみると喫煙者は成人の16.7%になります。未成年を入れると当然さらに下がります。

つまり,成人に限った話でも,喫煙者と非喫煙者の比率は167:833です。

この調査には,非喫煙者に対する「お店が禁煙になったため行くようになったお店があるか」という問いがありません。
そこで仕方がないので,非喫煙者に対して「禁煙を理由に初めて選んだお店があるか」という問いをもって,「お店が禁煙になったため行くようになったお店があるか」という問いに代えたいと思います。
(「禁煙を理由に初めて選んだお店があるか」という問いでは,そのお店が従前は喫煙店だったか禁煙店だったかは分からないし,初めてそのお店を選んだ理由が禁煙以外であった場合は「ある」にならないことになるので,あくまで参考値)

とすると,
喫煙者で「お店が禁煙になったため行かなくなったお店がある」人は47.2%いるわけなので,全成人人口で考えると,167×47.2%
非喫煙者で「お店が禁煙になったため行くようになったお店がある」人は(参考値になるが)15.4%いるわけなので,全成人人口で考えると,833×15.4%

すなわち,喫煙店が禁煙店になることによって,行かなくなった喫煙者と,行くようになった非喫煙者の比は,

167×47.2%:833×15.4% = 78.824:128.282 になります。

つまり,喫煙店が禁煙店になることで,逃す喫煙者客もいるが,その1.627倍の非喫煙者客を新規獲得できることになるわけです。

これは,お店が全成人人口をターゲットにしていると仮定した場合です。未成年も含めるとその傾向はさらに顕著になります。

仮に,全成人男性をターゲットにしているお店で考えてみましょう。
成人男性の喫煙者率は27.1%であるため,喫煙者と非喫煙者の比率は,271:729になります。
とすると,
喫煙者で「お店が禁煙になったため行かなくなったお店がある」人は47.2%いるわけなので,全成人男性人口で考えると,271×47.2%
非喫煙者で「お店が禁煙になったため行くようになったお店がある」人は(参考値になるが)15.4%いるわけなので,全成人男性人口で考えると,729×15.4%

両者を比較すると,271×47.2%:729×15.4% = 127.912:112.266 になり前者が若干多くなります。

よって,全成人男性のみをターゲットにしているお店であればまだしも,女性や子供をターゲットに入れているお店であれば,禁煙化にすることによって,逃す客よりも,新規に獲得できる客の方が大きいということになります。

(まあ改正健康増進法によって,喫煙可のお店はそもそも未成年は立入禁止のため,ターゲットから外れます)

他方で喫煙可のお店が喫煙可であることを維持した場合,「喫煙可を理由に初めて選んだお店」がある喫煙者が39.6%いる一方,「2020年4月以降も喫煙可であったことで行かなくなったお店」がある非喫煙者が11.8%います。

これを上記の全成人人口でみると,「喫煙可を理由に初めて選んだお店」がある喫煙者と,「2020年4月以降も喫煙可であったことで行かなくなったお店」がある非喫煙者の比率は,271×0.396:729×0.118 = 107.316:86.022 で前者が1.247倍になります。つまり,喫煙可を維持することで新規獲得できる客は,逃す客の1.247倍いるということになります。

ただ上記の通り,禁煙店になることで新規獲得できる客は逃す客の1.627倍いること,喫煙者は長年顕著に減少(特に若年層)していることを考えれば,合理的判断としてどちらが多くの客を獲得できるかは明白でしょう。

ところで,このネットエイジア社の調査は,その次の質問が「喫煙専用室や加熱式たばこ専用室のある飲食店のイメージ」であり,「『きちんと分煙に取り組んでいる』非喫煙者の64%、『店内がきれい』非喫煙者の58%が同意」という見出しになっています。
終始この調子で,質問の作り方や見出しの付け方をみると,喫煙店確保に誘導したいという印象を受けます。
ちょっと残念な感じですね。

藤原 唯人(ふじわらただと)

本サイト作成者 弁護士 藤原 唯人 (ふじわら ただと)

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兵庫県弁護士会所属(2000年登録)
神戸パートナーズ法律事務所
(神戸市中央区)にて執務
http://www.kobepartners.net/
日本タバコフリー学会会員