少し古い話になりますが,改正健康増進法の施行から1年のタイミングで,ネットエイジア社による意識調査が発表されました(以下グラフは同調査から引用しました)。
ネットエイジア調べ ~改正健康増進法の施行から1年~ 喫煙スペースが「必要だと思う」非喫煙者の64%
その中で気になる点として以下の2点を指摘します。
・喫煙スペースを「必要だと思う」人の割合
・飲食店が禁煙化したことによる行動変容の割合
まず,喫煙スペースを必要だと思うかという問いに対して,非喫煙者のうち「非常にあてはまる」と「ややあてはまる」が合わせて64.4%います。
この調査は多様なアンケートがなされているのに,記事タイトルに「喫煙スペースが『必要だと思う』非喫煙者の64%」と持ってきているように,「非喫煙者も喫煙スペースの設置を望んでいる」という点を強調したいものと思います。
ただこの結果のみから,よし駅前に喫煙スペースを設置しよう,店の入口に灰皿を置こう,ビルの横に喫煙場所を設けようと考えるのは,早計でしょう。
もし非喫煙者のためをも思ってこれらを実施されるなら,かえって非喫煙者の支持を得られず,反発を招くだけです。
確かに,改正健康増進法の姿勢として,喫煙者を喫煙場所に囲い込むことにより,受動喫煙を防止するという点があることは否めません。よって,喫煙スペースの設置というのは,その方向性に合致するとも言えます。
しかし,問題はその喫煙スペースの中身です。
この意識調査において,非喫煙者が喫煙スペースが必要だと思う理由として,「受動喫煙を避けることができるから」「禁煙場所で喫煙する人が減ると思うから」というのが上位に挙がってきています。
しかし,現実には,駅前等で設けられている喫煙所は,密室にも何もなっておらず,副流煙がダダ漏れで「受動喫煙を避けることができる」という点にまるで合致していません。
非喫煙者が喫煙スペースが不要だと思う理由として「においが漏れてきそうだから」と「煙がもれてきそうだから」が上位を占めていることが,象徴的です。
そして,どのような喫煙スペースがあるといいかという質問に対して,「煙が漏れない」「においが漏れない」が,喫煙者,非喫煙者ともに上位を占めています。
<喫煙者へのアンケート>
<非喫煙者へのアンケート>
つまり,「煙」と「におい」が漏れない喫煙場所でない限り,喫煙者のニーズも非喫煙者のニーズも満たさず,設置する意味がないというわけです。
しかしながら,現実の喫煙スペースの多くはこれに該当しない,というのはご認識のとおりです。
それどころか,喫煙者のうち「喫煙スペースからはみ出して喫煙」する人は27.6%おり,また2020年4月の改正健康増進法の施行以後,68.1%の喫煙者が「喫煙スペースからはみ出して喫煙」することが増加したと答えています。
これは,非喫煙者が喫煙スペースが必要だと思う理由の「禁煙場所で喫煙する人が減ると思うから」に逆行していることになります。
以上より,中途半端に喫煙スペースを設けるというのは,「煙が漏れない」「においが漏れない」という,喫煙者も非喫煙者も求める喫煙スペースの条件を満たしていないばかりか,なまじっか喫煙スペースを設け,さらに少なからぬ人たちが,そこからはみ出して喫煙しているという状況を作り出すことになります。
これでは,かえって非喫煙者の支持を得られず,喫煙スペースの存在に対する反発を招くだけでしょう。
ならば,費用だけかけて誰のトクにもならないという最悪を結果を招くということになり,およそ賢明な判断とは言い難いものと考えられます。
そうであるため,このアンケート結果から「喫煙スペースの設置は喫煙者にも非喫煙者にも支持されている」と考えるのは早計です。
その「喫煙スペース」は煙もにおいも漏れないこと つまり 今の世の中にきわめてまれな形態が想定されているため,きわめて難しいこと,実はほぼ不可能なことが前提とされているためです。
もう1点は,改正健康増進法施行後の飲食店選択における行動変化についてですが,それは項を改めて。