2020.6.30 改正法について 記事より

老舗旅館・加賀屋の「喫煙専用室」は「喫煙専用室」と言えるのか?

少し前の記事(PR記事)ですが,老舗旅館・加賀屋の改正健康増進法への取り組みと題するものがありました。

老舗旅館・加賀屋の分煙への取り組み、若女将が語った改正健康増進法への対応とは?(PR)

和倉温泉の有名な旅館「加賀屋」は,改正健康増進法施行にあわせて,館内の喫煙室を改修したそうです。

<引用>
客室棟「雪月花」に新設された喫煙専用室は、落ち着いた空間に、石川県の伝統工芸品である九谷焼や、金箔の屏風を思わせる柱が浮かび上がる。皮張りのソファや重厚な床タイルなど、加賀屋では珍しい洋風のテイストを取り入れた。
ここまで力を入れた理由について若女将は、「”コトをこなす場所”ではなく、”ときを過ごす場所”だと思っておりますので」と言う。これまで、たばこを介して会話が弾む光景を幾度となく目にしてきた。
<引用終わり>

改正健康増進法において,「多数の者が利用する施設」は原則禁煙になりました。屋内においては「喫煙専用室」において例外的に喫煙が許容されます。

しかし,加賀屋が作ったこれらのスペースは,「喫煙専用室」の要件を満たすのか,果たして疑問であると考えます。

「喫煙専用室」は,健康増進法において「専ら喫煙をすることができる場所」と定義されています。
「喫煙専用室」として認められるための物理的な間仕切りや風速など技術的な要件は定められていますが,「専ら」とはどの程度「専ら」であるべきかは,解釈に委ねられています。

ただ,健康増進法の目的が「国民の健康の増進を図るための措置を講じ、もって国民保健の向上を図ること」であり(1条),屋内は原則禁煙としつつも,「専ら喫煙をすることができる場所」のみ例外的に喫煙を許容したというのが法の立て付けである以上,喫煙以外のことを行ってよいかという点は厳密に解されるべきでしょう。
とすれば,少なくともその部屋の利用目的に喫煙以外のことが含まれると,「専ら喫煙をすることができる場所」に該当しなくなると考えるべきでしょう。「専ら」の国語的意味が「他はさしおいて、ある一つの事に集中するさま。」というように,複数のものから相対的にウェイトをかけるということではなく,一点集中というニュアンスがあることから,文言の素直な解釈にも合致します。

とすると,この部屋は,十分な広さがありまた高級なソファが置かれていることから,喫煙するのみならず,談話をすることを目的として作られているようです。
また,わざわざ高価な美術工芸品を置いているため,その鑑賞もすることが目的とも言えます。
記事の中でも,(喫煙という)”コトをこなす場所”ではない,と明確に否定されており,喫煙以外の目的を達成するためにこの部屋を作られたと読むことができます。

よって,「専ら喫煙をする」に該当せず,喫煙が許容される「喫煙専用室」の要件を満たさないのではないでしょうか。
つまり,法で認められた例外「喫煙専用室」ではない以上,ここで喫煙することは,健康増進法違反になるのではないかということです。

なにも喫煙室で会話をするなと言っているわけではありません。絵一枚飾るなと言っているのでもありません。また清掃目的で部屋に立ち入る必要もあるでしょう。
ただこの部屋が,喫煙以外のこと=会話なり美術工芸品の鑑賞なりを目的としてしまっている点において,もはや「専ら喫煙をすることができる場所」とは言えないというわけです。

加賀屋は私も泊まったことがあり,いい思い出がありますが,法的にグレーなことをあたかも画期的なことのようにアピールされている点,非常に残念なPRだと言わざるを得ません。

藤原 唯人(ふじわらただと)

本サイト作成者 弁護士 藤原 唯人 (ふじわら ただと)

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兵庫県弁護士会所属(2000年登録)
神戸パートナーズ法律事務所
(神戸市中央区)にて執務
http://www.kobepartners.net/
日本タバコフリー学会会員