2020年1月に完成予定の北海道議会新庁舎において,道議の自民党会派が控室に喫煙所を設けると決めたことに対して,内外から批判の声が出ているようです。記事はたとえばこちら。
改正健康増進法により,「第一種施設」は原則として敷地内禁煙,屋内は完全禁煙になります。「行政機関の庁舎」は「第一種施設」に該当するのですが,地方議会は「立法機関」であり「行政機関の庁舎」とは別扱いになるため,屋内に喫煙所を作ることができるという理屈のようです(※)。
この理屈をもう少し詰めてみたいと思います。
もっとも厳しい規制がかけられる「第一種施設」はどう定義されているかというと,
「国及び地方公共団体の行政機関の庁舎(行政機関がその事務を処理するために使用する施設に限る)」
と定義されています。
単に「国及び地方公共団体の行政機関の庁舎」だけなら,一般的な用語のニュアンスとして,国や地方公共団体の建物(ハコ)という具合に読めます。
これに対して,カッコ書きで留保がされており,「行政機関がその事務を処理するために使用する施設」ではない施設(ハコ)は「行政機関の庁舎」であっても,規制の対象外としています。
「行政機関がその事務を処理するために使用する施設」だから「行政機関の庁舎」じゃないのかと,ツッコミを入れたくなります。トートロジーじゃないかと。上記の図の黄身の部分が分からないじゃないかと。
ここで分からなくなって,「行政機関がその事務を処理するために使用する施設」ではないが「行政機関の庁舎」に該当するものが何か,厚労省に問い合わせてみました。
担当の方は,その例示として,地方議会のほか,公民館や図書館を挙げておられました。地方議会は予想していましたが,公民館や図書館はちょっと驚きです。
厚労省のQ&A(pdf)では,地方議会の議会棟部分は「第一種施設」に該当しないことを前提として書かれています(Q9-3など)。しかし,公民館や図書館については記載が見当たりません。
以下,私の理解になります(地方自治体に限って話をします)
「第一種施設」の範囲が「行政機関がその事務を処理するために使用する施設」に限られるということは,「行政機関・・の事務」の範囲が問題になります。
「行政機関・・の事務」とは,地方自治法2条2項でいう,自治事務と法定受託事務であると解され,自治事務とは,「地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のもの」と定義されています(同2条8項)。となると,地方公共団体が住民の福祉の増進をはかるため,地域における事務を広く処理することが期待される以上,およそ地方公共団体がやること全てが「行政機関・・の事務」と言えてしまいます。
そうであれば,公民館や図書館の管理は,当然「行政機関・・の事務」と言えるでしょう。たとえば,本稿執筆中の週末に(R1/10/12)台風が来ていますが,地方公共団体によって公民館に避難所が開設されている地域も多いと思います。
そして,地方議会は条例制定権があるため「立法機関的性格」はありますが,その議決対象をみると(同96条2項),必ずしも立法機関的な事柄に限られず,行政機関的な事柄もあります。
よって,地方議会が行政機関であるとまで言うと言い過ぎですが,行政機関的性格も併せ持つことを考えれば,地方議会の建物が「行政機関がその事務を処理するために使用する施設」ではないと言い切ることはできないのではないでしょうか。
ならば,議員の控室も「行政機関がその事務を処理するために使用する施設」であると解する余地があり,ここに喫煙所を設けることは,「第一種施設」の屋内に喫煙所を設けることになりかねず,改正健康増進法違反の可能性があることになります。
(なお,厚労省の解釈はあくまでいち解釈に過ぎず,法解釈の最終的な判断権者は,司法権たる裁判所になります)
とはいえ,もっと大切なことは,こうした文言をこねくり回すことではなく,なぜ改正健康増進法ができたのかという趣旨に立ち返ることでしょう。
その趣旨は受動喫煙を防止することにあり,中でも行政機関に相対的に厳しい規制をかけたのは,やはり一般国民に対しその範を示すべきという意図であると思います。
もし地方議会の議員が,公選による選良であるというプライドがあるのならば,こうした立法の趣旨に沿った判断を行うべきでしょう。
※行政機関の庁舎については「特定施設」として既に施行済み。「第一種施設」というのは2020年4月1日施行の概念。